大海原の小さな光

十一年前に戻った阿良々木くんは色々考えて、八九寺を交通事故から助けることにした。戦場ヶ原や羽川は事情が込み入りすぎていて助けるなどとても出来ないが、八九寺は母に日に母親の家を訪ねることにさえ失敗しなければそれで良いのだから幾分簡単だ、という考えであった。かくして十一年前の世界を楽しみながら、八九寺の母親の家を探したり、八九寺を交通事故から守ったりする話。

ここで、本来起こる筈の交通事故を交わしても別の形ですぐに死ぬだけ、いわば一時しのぎにしかならないのではないか、などとまたタイムトラベルというか過去に挑むことについて話題に上るあたりが実に芸が細かい。そして、これ自体は真面目な話題なのだがその後、不都合なことを何でも歴史の強制力にしたがるというギャグ扱いになるのも、まぁ、それなりに面白い。


それにしても今回は阿良々木くんの奇行が目に余る。タイムトラベルの可能性についてああだこうだ検討をしといて、当時の羽川にわき目も振らず飛びついてみたり、八九寺にいつものノリで襲い掛かってみたり。もはや色んな度を越した、救い難い馬鹿者である。もう少しまともな話は作れなかったのか、と思わざるをえない。


兎にも角にも、過去を変えることは出来て、八九寺は母の日を生き延びた。そして現代に戻ってみたら「世界が滅んでいた」という。タイムトラベルを満喫し、ちょっと過去改変を行ったところとんでもない変化が起きてしまった。世界を変えられるタイプの時間SFにおける醍醐味とも言える瞬間をヒキにして今回は終了。いったい何が起こったのか、真面目に盛り上がってまいります。