大海原の小さな光

引き続き、切嗣の過去が語られる話。前回が何故、切嗣が暗殺者になったのかという原因の話で、今回は切嗣が暗殺者としてどのように生きてきたかという話、といったところかな。


それほど特徴の無い少年に思われた切嗣は、シャーレイの死途化及びそれを発端として引き起こされた惨劇を理由に、同様の悲劇を減らそうと思いナタリアに弟子入りした。確実にその道で腕を上げ、成果を出し、ナタリアのことは家族のように思っていたが、そのナタリアを自分のせいで失うことになった。もはやここまでくれば明らかだが、このように世の中から悲劇を無くしたいと思いながら新たな悲劇は絶えないががゆえに、聖杯を彼は求めるようになった。

と、このように纏めれば切嗣も中々主人公っぽい人である。切嗣はここまでどうにも主人公らしくなかった。出番は少ないし、派手さは無くてむしろ地味だし、人間的成長や変化とも無縁だし。そうではなかったのだ。主人公らしい様々な体験は既にあって聖杯戦争はそんな人生の大詰めのイベントなのだ。

もう主人公らしくないとは言わせませんよ。世界平和のために、人類を救うために聖杯を求めるのは紛れも無く本音なだろうよ。物語はそんな彼の動機を丹念に描いた。彼が主人公でなくてなんだというのか。


余談だが、この切嗣のように話をある程度唐突に初めて重要な過去は追々明らかにしていく展開は原作者虚淵玄の得意とする技法なのではないかと思う。『Phantom』の主人公は記憶を消されてて後で明らかになるし、『鬼哭街』はそれこそいきなり始まって徐々に経緯が明らかになる話だし、といった感じ。そして同作者のこれの究極形が『魔法少女まどか☆マギカ』であることは疑う余地があるまい。

しかし『まどか☆マギカ』のあれの圧縮されぶりを思い出すと考えずにはいられない。この『Zero』の過去話こそ１話に詰め込むべきなんじゃないかと。まぁ、分けたことで独特の味が出たし、悪くはないんですけどね。


次回。ようやく現在の話に戻る。