大海原の小さな光

士郎対アーチャー、それは文字通りの意味で自分との戦いである。なにせ二人は元々同じ人間なのだから。無論細かいことを言い出せば違うとも言えるが、今重要なのはそういう細かい定義ではない。二人は同じ者の過去と未来となのだから、これが自分同士で戦っていると言わずして何と言うのであろう。

しかし、普通自分との戦いとはそういう意味で言うのではない。身体能力をはじめとする自分の能力の限界に挑み、これを超えようとする試みや、自分の精神が抱える葛藤、などについて語るときに用いるものではないだろうか。この話は徐々に直接の戦いよりも士郎の人生について語る描写が増えていく。過去の経歴や内面のあり方について実質一人で長々と話が続くそのさまはさながら精神世界の描写のようで、まさに自分との戦いというに相応しい。

周りが固有結界という奇妙なものに変わっているのに始まり、更に十年前の大火災など次々場面が切り替わって、作中現実がどうなっているのかよく分からなくなってくるのもミソだ。一連の戦いは一人の人間の内面描写っぽいものだという感じを強く打ち出している。こういう試みは、色、音、動きなど様々な感覚を使える映像作品だからこそ通じるものだ。映像作品という媒体をよく活かした表現だと言えよう。


そんな壮大な独り舞台が続く中、黒幕がしめやかに退場。私が個人的にこの「Unlimited Blade Works」編で一番気に入っていない、見たくない件はここなんですよね。見るからに胡散臭く実際黒幕らしく偉そうな言動をとっていた人物が、凜の父親を殺したという衝撃の事実を語りこそしたものの、それ以外特に何もしないまま死んでしまう。物語全体で見ても、メディアに根城たる教会を追い出されたりして、碌なことを出来ていない。この物語単体で見ればまだしも、十年前から色々やって来た黒幕、として考えるとこうもなす術なく死なれては肩透かしも甚だしい。

更に、この物語はどう見ても死んでる流れから余計に動く奴が多い中、この人は本気でこのまま死んでしまうところも拍子抜けに拍車を掛ける。ほら、命を使い切った筈なのに動いてギルガメッシュに迫ったヘラクレスとか、自害した筈なのに動いているランサーとかさぁ。あぁ、教会で襲われたときの件は、死体を確かめてないなら油断するなという意味のことを作中人物にも言われているほどなのでノーカウント。